白いハチドリのお話
白いハチドリは、ある南国の、花畑の中で生れました。
白いハチドリには、兄弟が5羽ありました。
その中で、白いハチドリは、彼だけでした。
他の兄弟たちは、緑や、瑠璃色や、オレンジ色の鮮やかな色をしていて、花の蜜を吸うための、長いくちばしを持っていました。
白いハチドリのくちばしは、白いちいさな二枚貝のような形をしていました。
そのちいさなくちばしは、美しく歌うのに優れてはいましたが、花の蜜を吸う事はできませんでした。
白いハチドリは、小さな虫や、川の水を飲んで暮らしていましたが、しだいに弱っていきました。
ある日、心配したお母さん鳥が言いました。
『ぼうや、ここにいては、お前はもうすぐ体が弱って死んでしまうね。ここはお前のいるところじゃないのかもしれないね。』
白いハチドリも、そのことはわかっていましたが、ここから出て行くと、お母さん鳥や、兄弟たちが悲しむと思って、言い出せずにいたのでした。
また、この幸せな花畑の外に出るのが怖くもありました。
しかし、お母さん鳥が背中を押してくれた今、白いハチドリは広い広い空へと羽ばたきました。
白いハチドリには、どちらへ行ったら良いのかが自然にわかりました。そうです、北へ、北へ。
白いハチドリは、何日も何日も、休むことなく飛び続けました。
今や、下に見えるのは、厚い雪に覆われた地面と、ごつごつした氷の岩でした。
白いハチドリはくたくたに疲れていましたので、どこかで一休みしたかったのですが、
もしも雪の上に降り立ったなら、小さなハチドリの体はたちまち雪に埋もれてしまいますし、
もしも氷の岩に降り立ったなら、足から冷気が這い上がり、全身が凍り付いてしまうでしょう。
そうして白いハチドリは、なおも休むことなく飛び続けました。
意識が朦朧としかけ、もういっそ、はばたくのをやめてしまおうかと思ったその時、少し先の岩と岩の間に、ほのかな光が見えました。
白いハチドリは、最後の力を振り絞って、光の方へ飛んで行きました。
気がつくと、白いハチドリは、あたたかな光の中でした。甘い優しげな香りもします。
『お前を待っていたのですよ』
優しい声の主は、美しく気高い「ユキノハナ」でした。
『私とお前の命とは、対になっているのです。お前がいなければ、私はこの雪の中に、ひっそりと消えていくところでしたし、私がいなければ、お前は凍り付いて死んでしまうところでした。』
そう言って、ユキノハナは、白い美しい花びらを一せいに広げました。
『さあ、おなかいっぱいおあがりなさい。そして眠りなさい。』
ハチドリは、花の中心へと舞い上がり、羽を動かしながら静止し、花びらにつつまれていた、蜜の入った甘い実をついばみました。それは今まで味わったことのない、深く深く染み込んでいくような甘さでした。
『ゆっくりおやすみ』
ユキノハナのささやきを聴きながら、いつしか白いハチドリは眠りにおちていきました。
目がさめると、辺り一面が白いあたたかな光で満たされていました。
あまい蜜のにおいもします。
白いハチドリが花の蜜をついばんだとき、ハチドリの羽がユキノハナの胞子を撒き散らし、そこから芽がでて、たくさんのユキノハナが咲いたのでした。
そう、春が来たのです。
白いハチドリは、冬の間中、ぐっすりと眠り込んでいたのでした。
美しい歌声が響き渡り、白いハチドリは上を見上げました。
するとどうでしょう、そこにはユキノハナの香りに引き寄せられて集まった、たくさんの白いハチドリが、うれしそうに飛び交っていました。
白いハチドリは、一人ぼっちではなかったのでした。
白いハチドリは、とびきり美しい声でさえずりながら、白いハチドリたちの方へと飛んで行きました。
寒い寒い北の国のどこかに、あたたかな光とあまいにおい、そして美しい音楽に満たされた、幸せな原っぱがあります。誰も見たことはありませんけれど、それはきっとあるのでした。
***
なんてことを妄想しながら作りました。
マチつきのがま口ポーチです。肩から提げても、チェーンを取り外して化粧ポーチなどとして使っても。
写真はチェーンを外した状態です。
吉祥寺、横丁ギャラリーの『おくりもの展』に出展します。よかったら、あなたも白いハチドリに会いに来て下さい。
白いハチドリには、兄弟が5羽ありました。
その中で、白いハチドリは、彼だけでした。
他の兄弟たちは、緑や、瑠璃色や、オレンジ色の鮮やかな色をしていて、花の蜜を吸うための、長いくちばしを持っていました。
白いハチドリのくちばしは、白いちいさな二枚貝のような形をしていました。
そのちいさなくちばしは、美しく歌うのに優れてはいましたが、花の蜜を吸う事はできませんでした。
白いハチドリは、小さな虫や、川の水を飲んで暮らしていましたが、しだいに弱っていきました。
ある日、心配したお母さん鳥が言いました。
『ぼうや、ここにいては、お前はもうすぐ体が弱って死んでしまうね。ここはお前のいるところじゃないのかもしれないね。』
白いハチドリも、そのことはわかっていましたが、ここから出て行くと、お母さん鳥や、兄弟たちが悲しむと思って、言い出せずにいたのでした。
また、この幸せな花畑の外に出るのが怖くもありました。
しかし、お母さん鳥が背中を押してくれた今、白いハチドリは広い広い空へと羽ばたきました。
白いハチドリには、どちらへ行ったら良いのかが自然にわかりました。そうです、北へ、北へ。
白いハチドリは、何日も何日も、休むことなく飛び続けました。
今や、下に見えるのは、厚い雪に覆われた地面と、ごつごつした氷の岩でした。
白いハチドリはくたくたに疲れていましたので、どこかで一休みしたかったのですが、
もしも雪の上に降り立ったなら、小さなハチドリの体はたちまち雪に埋もれてしまいますし、
もしも氷の岩に降り立ったなら、足から冷気が這い上がり、全身が凍り付いてしまうでしょう。
そうして白いハチドリは、なおも休むことなく飛び続けました。
意識が朦朧としかけ、もういっそ、はばたくのをやめてしまおうかと思ったその時、少し先の岩と岩の間に、ほのかな光が見えました。
白いハチドリは、最後の力を振り絞って、光の方へ飛んで行きました。
気がつくと、白いハチドリは、あたたかな光の中でした。甘い優しげな香りもします。
『お前を待っていたのですよ』
優しい声の主は、美しく気高い「ユキノハナ」でした。
『私とお前の命とは、対になっているのです。お前がいなければ、私はこの雪の中に、ひっそりと消えていくところでしたし、私がいなければ、お前は凍り付いて死んでしまうところでした。』
そう言って、ユキノハナは、白い美しい花びらを一せいに広げました。
『さあ、おなかいっぱいおあがりなさい。そして眠りなさい。』
ハチドリは、花の中心へと舞い上がり、羽を動かしながら静止し、花びらにつつまれていた、蜜の入った甘い実をついばみました。それは今まで味わったことのない、深く深く染み込んでいくような甘さでした。
『ゆっくりおやすみ』
ユキノハナのささやきを聴きながら、いつしか白いハチドリは眠りにおちていきました。
目がさめると、辺り一面が白いあたたかな光で満たされていました。
あまい蜜のにおいもします。
白いハチドリが花の蜜をついばんだとき、ハチドリの羽がユキノハナの胞子を撒き散らし、そこから芽がでて、たくさんのユキノハナが咲いたのでした。
そう、春が来たのです。
白いハチドリは、冬の間中、ぐっすりと眠り込んでいたのでした。
美しい歌声が響き渡り、白いハチドリは上を見上げました。
するとどうでしょう、そこにはユキノハナの香りに引き寄せられて集まった、たくさんの白いハチドリが、うれしそうに飛び交っていました。
白いハチドリは、一人ぼっちではなかったのでした。
白いハチドリは、とびきり美しい声でさえずりながら、白いハチドリたちの方へと飛んで行きました。
寒い寒い北の国のどこかに、あたたかな光とあまいにおい、そして美しい音楽に満たされた、幸せな原っぱがあります。誰も見たことはありませんけれど、それはきっとあるのでした。
***
なんてことを妄想しながら作りました。
マチつきのがま口ポーチです。肩から提げても、チェーンを取り外して化粧ポーチなどとして使っても。
写真はチェーンを外した状態です。
吉祥寺、横丁ギャラリーの『おくりもの展』に出展します。よかったら、あなたも白いハチドリに会いに来て下さい。
by junocchi
| 2010-12-11 18:48
| 刺繍