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東京力車の藤浪さん

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生まれて初めて、『人力車』というものに乗った。
普段の自分は、タクシーどころか四谷三丁目から新宿までの丸ノ内線すらケチって歩く女である。
この日は静岡からはるばる、同級生のいっちゃんが遊びに来てくれたので奮発したのだ。

浅草駅の改札を出た瞬間、私といっちゃんは、赤いハッピに短パン姿の男性に声を掛けられた。2年以上も住んですっかり東京擦れした私は、聞こえません とばかりにやり過ごそうとしたのだが、人の良い彼女は立ち止まり、興味深げに話を聞き始めた。
内心あーあと思いながら、踏み出した足を引っ込め、どう断ろうかと思いながら話を聞いているうちに彼の巧みな話術で、文字通り、すっかり乗せられてしまった。

人力車というのは、単なる足ではない。旅行者の要望を聞き出し、プランを提案し、名所にまつわる小話を惜しげもなく披露しながら、運搬・同行までしてくれる、旅のコンシェルジュのようなものなのだ。

また、車夫のお兄さん自体のキャラクターが良いのである。
今風のイケメンというには少し暑苦しい感じの、真っ黒な髪に太い眉毛が、なんとも安心感を感じさせるし、よどみない説明には誠実なプロ意識が漲っている。
なによりふくらはぎのししゃも筋が、彼の豊富な経験を物語っていた。

この外見だけでつかみはオーケー、プライベートでのモテ具合はわからないけれど、人力車業界ではなかなかの引っ張りだこなのではないだろうか。(その証拠に、私達が降りたあとも、別のお客さんをのせて町中を走る彼を度々見かけた。)

エスコート具合も実にスマートで、私達は『御姫様』と呼んでもらい、有名建造物を背景に写真撮影をしてもらい、人に披露したくなる蘊蓄や、お寺や神社にお参りする時のマナーなど、いくつかの新知識をお土産にもらって、すこぶる上機嫌で人力車を降りたのでした。

それにしても、重い車を引いて東京中を駆け抜ける彼らの体力・気力は半端じゃない。しかもお客さんを見つけて、説得して、サービスを提供し、満足させてお金をもらう、までを全部自分一人でこなすのですから、かなりマルチな能力を求められるお仕事です。

今日も浅草のどこかを走っている東京力車の藤浪さん、楽しい時間をありがとう!
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