ツバメの一生

ツバメは風でできていることをご存知ですか?
春と夏のあいだのほんのひととき、ふわりとあたたかい空気のなかにひとすじ、ひやりとした水色の風が吹くことがあります。

その風が、なにかのはずみで丁度良い調合になったとき、ツバメになるのです。

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私たちが生きているのと同じように、ツバメにとって、ツバメとしてこの世界に存在することは、楽なことではありません。
風であったころは、苦も楽もなく、自分も他人もなく、ただ無限にひろがる風であることに没頭し、頭をからっぽにして、たゆたっていられたものですが、
1羽のツバメとして生きて行くからには、食べ物を探したり、おおきな怖い生き物から、身をまもらなくてはなりません。

それになんといっても、風であったころには気にも留めなかった空気というものが、こんなに重いなんて。それにもう、強い風が吹いて来たってそこに溶け合うこともできないのです。はっきりと輪郭をもつ体というものが、風を跳ね返してしまいます。そのたびに感じる衝撃のするどいこと。

ですからツバメは、生まれてきたその瞬間から、必死に風に戻ろうとするのでした。
それには自分が透明で無限の存在、つまり風になったところを想像しながら、風向きに逆らわず、力を抜いたまま目を閉じて飛ぶのです。
うまいぐあいに風に溶けることができれば、そのまま風になってどこまでも自由に広がってゆくことができるそうです。。

しかしこれが、並大抵のことではないのでした。風になりきるというのはかんたんそうで大変むずかしく、たとえば目を閉じているあいだに高いビルの壁にぶつかったらどうしようとか、今、大きなとんびが上空を飛んでいるかもしれないと考えただけでも、余分な力が入ってしまってうまくゆかないのです。

最悪なのが恋に落ちてしまうことで、ながいことツバメのままでいると、他のツバメと出会うことも多くなり、いかしたツバメに出会えば、当然ツバメだって恋におちるのです。

一度恋を知ってしまうと、なかなか風に戻ることができなくなります。そもそも、昔自分が風であったことさえ忘れてしまうのですから。

いつもいつも、恋した相手のことばかりを考え、自分は他のツバメよりもすてきかしらと窓ガラスに映った自分の姿を眺めたり、ほんの一瞬、翼の先が触れただけで有頂天になったり、恋人のためにせっせと居心地のよいすみかを作ったり、そんなことに夢中になってしまうのです。

そうなってしまったツバメは、かわいそうに、一生をこの重たい空気を背負って、さまざまな物におびえてきょろきょろと周りを見回しながら過ごすことになるのです。
そのかわりに、恋が実ってつがいになったツバメのところには、すてきな贈り物が届けられます。
そう、すべすべとした、まだらもようの美しい卵です。その卵から、かわいらしいひな鳥が生まれたときの喜びといったら、風になることにも劣らないほどです。

ただ、その喜びはほんの一瞬で、ひなどりが成長して巣立ってしまえば、その体が朽ち果てるまで、また苦難の日々が続くのでした。
こうなったところでようやく、自分が昔風だったことを思い出すわけですが、この段階で風に戻ることはいっそうむずかしいのです。
長い間に、ツバメとして暮らして来た習慣や思い出を全て捨て去って風になりきることが、どれだけ難しいことなのか、想像もできませんよね。それでもごくまれに、風にもどることのできるツバメもいるそうです。

ツバメが春と夏の間にたくさん飛び交い、いつのまにかどこかへ行ってしまうのはこういうわけなのです。






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by junocchi | 2012-03-29 07:33 | 刺繍 | Comments(2)
Commented by おとんた at 2012-03-31 18:12 x
ツバメは風と仲良しですね。
恋に落ちたツバメが可愛い雛を育てるのを
見るのも楽しみです。
Commented by junocchi at 2012-04-01 10:22
おとんたさんこんにちは^^
きっともうそろそろ姿を見せてくれますね。たのしみです♪