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クリスマスの前のばん

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クリスマスの前のばんのことです。

ちいさな煙突のある、ちいさなお家の中で、おんなのこは怒っていました。

窓際のちいさなベッドにこしかけ、しとしとと降り積もる雪を眺めながら、おんなのこはちいさくつぶやきました。

「おかあさんのうそつき…」

おんなのこのちいさなひざの上には、真っ赤な毛糸玉がひとつ、のっかっています。
この毛糸玉は、先週の日曜日にお母さんと街へ出かけたときに、商店街のちいさな手芸屋さんで買ってきたのでした。

「今日はお母さんと編み物する約束だったのに。」

今朝ごはんを食べていたとき、急に電話がかかってきて、お母さんは仕事に行ってしまいました。
お母さんの会社の人が急に風邪をひいてしまったのでした。

おんなのこはこの毛糸でマフラーを編んで、お母さんにプレゼントしたかったのです。毎年クリスマスにプレゼントをくれるのが、遠い国のサンタクロースではなくてお母さんなのだということを、勘のするどいおんなのこはよく知っていましたので、今年は自分がサンタクロースになって、お母さんを喜ばせてあげようと考えたのでした。

「あーあ」
おんなのこがちょうど100回目のため息をついたそのとき、ひざの上にのっていた毛糸がおちて、ころころと床を転がって、ベッドの下に入ってゆきました。

「どうしよう!」
おんなのこは泣きそうになりました。この前いとこのおにいさんが来たとき、ベッドの下には魔物がひそんでいて、誰かがうっかりのぞきこむのを待っているのだといっていたのを思い出したのでした。

おんなのこはベッドのかけぶとんをおしのけて、耳をぴったりつけて、ベッドの下の様子をうかがいました。

すると ことこと、かさかさと、かすかなものおとが聞こえてきました。

おんなのこが恐怖のあまりこおりついたそのときです。

「こわがらないで」
ちいさな声が聞こえたかと思うと、赤いちいさなものが、ベッドの下からとびだしました。
よくみると、それは真っ赤なちいさなこじかでした。

こじかは真っ赤な毛糸の妖精でした。

「いま一番ほしいものはなに」
「わたし、お母さんにマフラーを編んでプレゼントしたいの」

こじかが かたん、とひづめを鳴らすと、毛糸玉と、編み棒が2本、現れました。

「でも…わたし あみかたをしらないの」

おんなのこが恥ずかしそうに言うと、
こじかはちいさな声でうたいだしました。

ちいさな赤いマフラーも おおきなしろいセーターも 一ばんさいしょはちいさな輪っか

すると、音楽にあわせておんなのこのちいさな手が動き出して、ひとさしゆびとおやゆびを器用に使って、一番最初の作り目をつくりだしました。

ちいさな輪っかは魔法の輪っか 針をいれて引き抜けば でてくるでてくるちいさなマフラー

こじかの歌にあわせて、おんなのこのゆびは動き続けます。
よけいな力をいれないで、編み棒を穴に入れて、また引き抜いていくだけで、赤い毛糸がきれいにからまって、どんどんマフラーが出来上がっていきます。

「さあ できたね」

気がつくと、マフラーはすっかりできあがっていました。
おんなのこが心地よい疲労感と満足感につつまれて顔をあげると、赤いこじかもやさしい目をしておんなのこを見つめました。

「ぼく いかなくちゃ」

おんなのこの目からちいさな水玉がぽろぽろこぼれました。

「どこにいくの?」
「きみのそばに」

気がつくとクリスマスの朝で、おんなのこはベッドの中で目覚めました。
「あれは夢だったのかしら」

おんなのこが少しさみしい気持ちで階段を降りていくと、キッチンからいいにおいがしてきました。

「おかあさんだ!!」

いそいで扉をあけると、お母さんがスープを温めなおしているところでした。

「おはよう」

にっこり笑ったお母さんの首元には、真っ赤なマフラーがまかれています。

「今年はお母さんのところにもサンタクロースがきたみたい。」

おかあさんはそういって、うれしそうにマフラーをほっぺにあてるしぐさをしました。

その美しさにおんなのこがみとれていると、お母さんはクリスマスツリーの方を見て言いました。

「ねぇ、あの箱はなにかしら」

お母さんは毎年プレゼントを用意して、ツリーのしたに置いておくんです。

「サンタさんだわ!」
おんなのこはすっかりわかっていましたが、いつものように無邪気にさけびました。

今年もお母さん、プレゼント用意してくれたんだ。忙しかったのに…

そう思いながらもわくわくして包みをあけると、中に入っていたのは、白い毛糸で編んだ、ゆったりしたセーターでした。
そっとひろげてみて、おんなのこはおどろきました。

セーターの胸あたりに、昨日いっしょにマフラーを編んだあのこじかが、すました顔で編みこまれているではありませんか。
おんなのこはなんだか泣きたいみたいになって、セーターに口を寄せて、小さな声でそっとささやきました。

「ありがとう」

セーターの中で、こじかが かたん とひづめを鳴らしたような気がしました。
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◇◇◇
なんてことを妄想しながら作りました☆
by junocchi | 2009-11-27 23:07 | 刺繍